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ライトノベル・アニメ・フリーADV・フリーRPG等の感想を書いたり、撒き散らしたりする。基本的にネタバレで感想を書くのでご注意を。不定期更新です。
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これだけ、ドキドキさせられる小説は、そうはないだろう。
いま、もっとも旬だと個人的に思ってる作家、支倉凍砂の最新作。
教会都市リュビンハイゲンでの騒動を乗り越え、行商人ロレンスと狼神ホロは、ホロの故郷であるヨイツへの旅を再開した。しかしながら、ヨイツの情報を集めようと立ち寄った町、クメルスンで、またしても、ロレンスとホロはトラブルに巻き込まれてしまう。
なんと、クメルスンに向かう途中の道で知り合った、魚商人アマーティが、ホロに一目惚れしてしまったのだ。普通は、一目惚れをしたとしても、男と旅をしているならば、「可愛いな、羨ましいな」というように考えるだけで、諦めるはずだ。しかし、アマーティは若かった。若い衝動というのは、時に抑えられなくなる。ホロがロレンスに借金していることを知ったアマーティは、その借金が形だけのものだとは思わず、借金があるせいで、ホロはロレンスの旅に、無理やりつき合わされていると、曲解したのだ。そんなはずがない、と読者はロレンスに同情せざるを得ない。むしろ、反対じゃないかと、アマーティに教えたくなってくる。
勘違いをしているアマーティは、ホロを助けるため、ロレンスに決闘を申し込んだ。決闘とは、殺し合いではなく、契約の履行を巡る戦いだ。アマーティは、ホロの借金であるトレニー銀貨千枚分を、ロレンスに支払うことによって、ホロにかかる鎖を断ち切ろうとしたわけだ。あったのは、鎖ではなく、絆の間違いだったが。周囲の目を気にしたロレンスは、その決闘を受けざるを得ない状態になった。
アマーティは、どこぞの国の三男坊らしく、気品に溢れた格好の良い若者であったが、ロレンスは、ホロを信じていたため、決闘に負けたとしても、ホロがアマーティになびくことはないだろうと考えた。それは、当然の考えだ。1巻、2巻と、ますます互いを必要としてきている二人、ホロの言葉を使うと「浅からぬ縁がある」二人の旅が、そう簡単に終わるわけがない。そう信じることができるロレンスは大人だな、と、この時はまだ余裕を持って読んでいた。
しかし、ホロがヨイツが滅びたかもしれないということを知ったことにより、状況は一変する。ロレンスは、ヨイツのことを、告げるべき時に告げようと思っていたが、ホロは、それを「騙された」と曲解して、取り乱してしまったのだ。冷静になったホロは「すまぬ」と言ったが、それを拒絶だと受け取ったロレンスにより、本巻の騒動が激しくなっていく。まさに、この光景は、2巻のデジャブだと思った。2巻では、ロレンスが、金を借りれなかったのを、姿を見せていたホロのせいにして、すぐに謝った。今回は、ホロが取り乱してしまった。だが、2巻と違い、今回の話は、ロレンスは悪くない。欲を出して、信用買いに失敗したのが原因の2巻とは違い、今回は、ホロの心情を考えたせいで、起こったことだったからだ。だから、今回のロレンスは、なんとも可哀想であった。だがやはり、謝るのは、男の仕事らしい。
ホロとすれ違ってしまったロレンスは、絶望した。決闘に負けると、ホロは自由の身だ。ホロが自分と一緒にいる理由はあるのか、自分よりアマーティの方が良いのではないか。そう思ったロレンスは、何としてでも、決闘に勝たなくてはならなくなった。借金という鎖があれば仲直りはいつでもできるが、アマーティと駆け落ちされるとおしまいだと考えたのだ。ホロが、涙ぐましい、仲直り大作戦を決行していたのに気づかないまま、ロレンスの焦燥感は、ますます激しくなっていく。俺も、ホロの裏工作なんて知るよしもないから、ロレンスと同様に、「ホロ行かないでくれ!」と祈りながら、頁を読み進めた。狼と香辛料が離れるはずがないにも関わらず、どうなるんだろう、とドキドキさせられるのが、本当に凄いと思う。
ロレンスは、商人の知恵をフル活用し、アマーティに、黄鉄鉱の信用売りをすることを思いつく。これは、俺も考えたけど、それが受け入れられるはずはないと思っていた。まさか、「3度、泣いた」発言で、アマーティを激昂させ、契約に合意させるとは思わなかった。沸騰しそうな感情を抑えることができるロレンスは、格好良いと思う。やっぱり、我慢が大事だよな。
黄鉄鉱の価格を大暴落させることにより、アマーティを出し抜こうとするロレンスだが、そのためには、大量の黄鉄鉱が必要であった。しかし、ありえないほどの価格上昇を続ける黄鉄鉱を、大量に入手することは困難だ。だから、ロレンスは、旧来の知人である麦商人マルクに、黄鉄鉱の買い付けを頼んだ。がしかし、それは不可能であった。行商人と町商人は、立場が違うのだ。俺も、ロレンスと一緒に絶望した。
次に、ロレンスは町で知り合ったバトス氏に、姉さんとの黄鉄鉱取引の仲介を頼んだ。このシーンの、バトス氏の沈黙のせいで、手に凄く汗をかいてしまった。断られると、ロレンスとしてはおしまいなのだから。
姉さんは、ロレンスの抽象的な例えだけで売買に合意したのだけど、そんな抽象的なのでよく了承したな、と思っていた。が、その場にホロもいたらしい。なんかありそうだなと思ってたけど、まさかホロがいたとは。「神と人間で子作りOK?」というロレンスの発言を、ホロがどのように解釈したかは定かではない。ホロが寂しくないように、子供を作れるという事実だけ教えようとしていたロレンスは、やっぱり、優しい男だ。それに反してホロは、「優しくしてくりゃれ?」とか言って、からかってるし。こういった二人のやりとりが、この作品の一番面白いところだな。
大量に黄鉄鉱を入手するつもりだったが、ひたすら手に入らないロレンスと、ひたすら価格上昇を続ける黄鉄鉱により、俺の動揺も最高潮。もう、諦めるしかないんじゃないか。ホロは、アマーティに協力しているのかもしれない。一人の自分に出来ることはもうない。諦めようと、ロレンスが決意した時に、マルクの弟子ラントが、「諦めちゃ、そこで終了っすよ」なんて格好良いこというもんだから、なぜか涙腺が緩んでしまった。そうだ、ホロとの旅は万金に値するのだ。諦められるわけがない。
損得だけで動く商人にあるまじき希望的観測をもってして、ロレンスは、ぼろぼろの切り札を切った。ロレンスは、ホロのことを、最後は、信じることができたのだ。
結局、アマーティなんかより、ロレンスが好きでありんす的な流れで、ホロがロレンスを助けて、決闘は終わった。少しは、アマーティに流れていそうだと思っていたのに、そんなことはなかった。むしろ、アマーティが、我慢ならないことを、ホロに対していったらしく、ホロはたいそう腹を立てていたようだ。多分だけど、アマーティは、ロレンスの悪口を延々と言って、ホロを口説いていたのだろう。そりゃあ、腹も立つし、尻尾も震える。
ロレンスにとって、ホロは何なのか。それを曖昧にしたまま、これまで旅をしてきたから、今回のような誤解が生じてしまったのだろう。「言葉ではとても表せない」というのが、ロレンスの回答だ。恋とか友情だとか、そんな風なもんじゃなく、ただ一緒にいたいというか、お互いを必要とし合っているというか、そんな関係がとても美しく感じられる。わき道にそれるが、灼眼のシャナで、祐二とシャナが街を出たとしても、ここまで素晴らしい関係になるとは考えられない。
ホロとの旅は万金に値する、というフレーズが、本作で一番、心に残った。頭のてっぺんから、足の先まで商人で出来ていたロレンスも、ホロとの出会いを通して、少しづつ、暖かな心を取り戻しているような気がする。マルクを友人と思うようになったことが、良いな、と思った。
ヨイツが滅びていても、ヨイツに行きたいとホロはいう。それに付き合うとロレンスはいう。かくして、狼と香辛料の旅は、続いていくようだ。

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